あやかし螺紋34 「カレンとお茶を」
2008年2月8日 18:36
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―あくる日の放課後―
矜迦里学園の校門の影から二人の女が、夕子を見ていた。
ピンクのTシャツにめがねが、ハナ。青のTシャツのふくよかな方が、ハル。
夕子が、悪の組織の女幹部だった頃の、部下の二人である。―ドジで役立たずだったが。
今はコンビで芸人をやっている。―売れてないが。
先日、東京から矜迦里市に、「営業」で来ていたハルとハナは、偶然夕子と再会した。
夕子を心から慕う二人は、涙を流して喜んだ。
そして、ちょくちょく夕子の様子を観に来るのだった。
夕子も二人のことが可愛いので逢えるのはうれしいのだが・・・。
夕子は金剛寺カレンの祝福を受けていた。「あやかし少女神楽」の勝利に対してである。
「さすがはゆっこさま、信じていましたわ」―カレンは夕子の手を両手で握った。
「いよいよ、戦えますわね、わたしたち」―満面の笑みだ。
無邪気な笑みに、夕子は複雑な思いがする。今までの戦いは自分にとって極限のものだった。
―そんな死闘を、この天使のような子とも、やらねばならないのか。
「よろしかったら、わたくしの家にいらして。おいしいお紅茶とケーキがありますの」
断る理由もない。夕子は承諾しようとした。だが、その前に―
「ハル!ハナ!何こそこそしてんの!!」
「ひゃい!すみません!ニャーゴさま!!」夕子の声に直立する二人だった。
ハルとハナも、カレンのお茶に、呼ばれることになった。
移動はなんとリムジンだった。ハルとハナは「わぁ!長いくるま!すげぇ」とはしゃいだ。
カレンの家にも驚きだった。たまたま矜迦里市に別荘があって、今はそこに
住んでいるそうだが、これがまた豪邸だった。リンの屋敷よりも3倍は大きい。
父は日本人、母はアメリカ人。共に高名な占い師だそうで、日米のセレブの多くが顧客となっている。
ハルとハナは「すげぇ!」の連発である。ゆっこはその度「静かに!」と叱る。
ケーキも紅茶も、高級なものであった。またしても騒がしい二人が・・・。
「うめぇ!まじやべぇ!このケーキ!!」とハル。「このお茶も超おいし~」とハナ。
ガツガツ、グビグビと行儀の悪い事この上無い。特にハルの食意地の張りよう・・・。
―夕子は恥ずかしくて、二人に殺意をおぼえた。
「ところで、ゆっこさまとお二人のご関係は?」とカレンが訊いた。
「はい!手下です!」とハルとハナが声をあわせる。
「ちがう!友人です」あわてて訂正する夕子。(・・・あとで殺す)
話題は夕子の兄の事になった。ハルとハナは無言になった。
夕子の兄、ウゴブロマンこと蜂矢久一は、かつて自分たちの宿敵であった。
それが実は自分たちのリーダーである夕子の兄であったという事を、うまく飲み下せないのである。
そのことに関して夕子は、二人に申し訳ない気分になった。
「わたし、ウゴブロマンさまに、命を救われたことがありますの」
カレンが小学生のときに、地震の建物の倒壊で、瓦礫に閉じ込められた。
足を骨折し、身動きが取れず、暗く狭い場所に閉じ込められ、恐怖と苦痛のどん底に落とされた。
その状態だったのは1時間程だったが、カレンには永遠にも感じられた。
「おかげで暗くて狭いところは、今でも苦手です。」―とカレン。
誰かの足跡が聞こえたとき、カレンは渾身の力で「助けて」と叫んだ。叫んだつもりだったが
蚊の鳴くような声しか出なかった。
しかしウゴブロマンは、その声を聞き逃さなかったのだ。震災の救助活動に参加していた彼は
瓦礫を慎重にどかして、カレンを救出した。
「あの頃はわたくしも、能力に目覚めていませんでしたから、無力でしたわ・・・
でも無力で小さなわたくしの声を、お兄様は聞き遂げてくださった」
傷ついた体を抱き上げ、「もう心配ない」と言ってくれた。その声を、今もわすれない・・・。
カレンは当時を思い出し、眼を潤ませた。
夕子も感動し、誇らしかった。
「さすが!正義の味方!妹とは出来が違う!」めがねの奥の瞳を潤ませてハナが言った。
「ほんと!ニャーゴさま、ウゴブロマンに負けてよかったですねぇ。
ウゴブロマンより弱くてよかったですねぇ。正義は勝つ!ですねぇ」と福々しい顔でハルが言う。
(こいつら・・・調子に乗りやがって。後で見てろ・・・)
夕子は怒りを押し込んで微笑んだ。
