あやかし螺紋30 マダラ編 「幽霊屋敷」
2008年1月21日 07:37
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―放課後
音楽室の一件から、カナとは言葉を交わしていない。
悪いのは自分、謝らなければと思うのだが、勇気がない。
(わたしは弱くなってる)―夕子はそう感じている。戦闘力は、ニャーゴの頃よりも
格段にアップしているにもかかわらず・・・。
人間関係にウジウジして、一言が言い出せず、悩んでいる。
教室で帰り支度をする。美術部にはしばらく、顔を出していない。マキとの特訓にその時間を
使っていたからだ。カナが怒っている原因の一つがそこにあるのだろうと思う。
クラスの女子の喚声がする。教室に城戸ミシェルが入ってきた。
金髪碧眼、身長は180センチぐらい、整ったルックスの、日仏ハーフ。そして、“怪事官”。
夕子の側に来て言った。「一緒に帰りませんか」
夕子はドギマギしながら「いえあの、マキさんとの約束が―」と答える。
「マキさんからは、許可を頂いています」とミシェル。
猛暑の中、ブレザーにネクタイで汗もかかず、平然と歩くミシェル。その横には夕子。
「寄り道できませんか?少し歩きますが」ミシェルはそう言って、夕子を導く。
寄り道にしては長いものとなった。矜迦里山の北東の中腹に二人は来た。
山道の先に洋館が建っていた。「あれは、月宮リンの住む家です」
昭和の初期に、ある企業家が建てた別荘であるが、昭和の終わり頃事業の失敗による家主の自殺―
―その館で行われた―が起きてから、いわくつきの場所となった。
「幽霊屋敷」―地元の人間にそう囁かれていた。幽霊や人魂の目撃談、肝試しに入った少年少女たち
全員の自動車事故死。映画撮影に使われた際も、関係者に次々不幸が訪れたという。
―リン、「あやかし少女神楽」の、次の対戦者。どこか得体の知れぬ雰囲気をもっている、赤い髪の
女性。カナとの事で、感情の衝突があった。
「彼女は僕の知り合いなんです」―洋館を離れ見ながら、ミシェルは語り始めた。
「彼女は元々母の友人で、初めて会ったのは五月革命のころのパリ・・・」
五月革命!?―60年代末のフランスに起きた反体制運動。
リンの年齢は一体幾つなのか。そして、ミシェルも・・・。
そこからリンの正体ついての、ミシェルの驚くべき独白が続いた・・・。
「まさか、そんな・・・」夕子は唸った。
「マキさんは彼女を警戒しています。確かに戦う相手としては危険ですが・・・
あの人は、やさしい人です」ミシェルは館を見つめながら言った。
「どうして、わたしに教えたの?リンさんの事」―彼女にとって、不利になる事をどうして・・・。
ミシェルは夕子を見た。無言の言葉。夕子はそれを、感じ取った。そうなのか・・・。
「危険な存在は」ミシェルは言う。「別にいる。僕にはそう感じられるのです」
「それは、どういうことですか?何かがおこると・・・」
「わかりません、はっきりとは。ただその出来事の中心には、あなたがいる」
(わたしが・・・)
「僕は今からあの屋敷に行きます。彼女に招かれていて。蜂矢さんも一緒にどうですか?」
「いえ・・・、わたしは」夕子は断った。どんな顔をしていればいいのだ。
「リンさんにごめんなさいって、伝えてくれますか」
「自分で言えばいいのに」ミシェルは微笑んだ。子供のような、素晴らしい笑顔だった。
「付き合ってくれてありがとう。一人でだいじょうぶですか?」
「はい」
「あの人は、一人であそこに居るんです」ミシェルはそう言って、夕子から離れていった。
ミシェルの後姿を、夕子は見送った。
木々の中の洋館に、彼の姿は似合っていた。―きっとリンも。
日が暮れ始めている。
(あそこに一人で・・・)
ミシェルの姿が、館の中に消えた。
(誰かと居ても、人は一人なんじゃないの?)夕子は心の中で、そうつぶやいた。
