あやかし螺紋28 ―新章・マダラ編 「カナ・フラジャイル―君の友だち」
2008年1月1日 21:36
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一ノ瀬カナは蜂矢夕子とけんかをした。
最近の夕子は、カナが話しかけても上の空だったり、一緒に帰らずに、お下げの女の子と
どこかへ行ってしまったりと、不可解な行動が多い。
また、悩んでいる風でもあった。何かあるなら自分に話して欲しかったが
夕子はカナに、何も打ち明けはしなかった。
カナは中学生の時にいじめを受けた。いじめられているクラスメートの女子をかばって
自分が標的になった。担任教師が気づいて、いじめは短い期間で止んだが、カナの心に傷を残した。
高校生活にでは、カナは仮面をかぶることにした。不信を隠し、明るい女の子としてふるまった。
そしてクラスのどの派閥にも属さず、深い個人の交流は避けた。
それが、編入してきた夕子と出会って、変わった。
夕子は女性の官能的な部分と、素朴でなつかしい雰囲気を兼ね備えていた。
入院生活が長かったらしく、浮世離れした所も魅力的だった。
(ゆっことは、本当の友だちになりたい)―「スクール・カースト」なんか関係なく…。
カナは自分を改め、夕子に対しては、心をオープンにしようと努めてきた。
でもゆっこは、壁を作っている。カナはそう感じた。いつも自分に優しく、可愛らしい笑顔を向けて
くれてはいたのだが。それがカナには悲しかった。
そんな想いが破裂した。放課後、二人だけの教室で。悪いけどまた一人で帰ってと告げる夕子に
カナは怒りをぶつけた。―最近の夕子は変だよ。なんで何も話してくれないの。
―ごめんとだけ言い、うつむく夕子に、「あたしたち、友だちじゃないんだ…。じゃあこれからもずっと
一緒にかえらなくていいね」―そういい捨てて教室を一人で出た。
教室からしばらく歩いて振り返ったが、夕子は追ってきてはくれなかった。
悲しい気持ちで廊下を進んでいると、ピアノの音色が聴こえてきた。
Am7-D6-Am7-Gm7-Fmaj7―メジャーセブンコードの軽快な連なりがリフレインされる…。
(キャロル・キングの「It's Too Late」だ…)
キャロル・キングは女性シンガーソング・ライターの草分けで、この「It's Too Late」が
収められたアルバム「Tapestry」(つづら織り)は世界で2200万枚を超えるセールスを記録した。
名盤中の名盤であり、洋楽好きの両親の、特に母親にとってのフェイバリットだった。
放課後、時々聴こえてくる、少し古めの洋楽ポップスのピアノ演奏。この間はカーペンターズだった。
音色がする音楽室のドアを少し開けて中をのぞくと、赤毛の女生徒がピアノを弾いていた。
「入ろうよ」―ドキッとして振り返ると、女の子が立っていた。
背が高く手足もすらっとしていた。長い髪に童顔の微笑み。カナは魅了された。
「さぁ」と腰を押され、言いなりになった。中に進むと、演奏を中断した赤毛の女の子が、こちらを
見つめている。カナはまたしても魅了された。
赤毛で西洋の顔立ちは、まるでお人形だった。綺麗だとおもった。そしてなぜだか切なくなった。
「あたし、斑野(まだらの)マイってゆうんだけど」―背の高い子が言った。「あんたは?」
「一ノ瀬カナです!」ドキドキしながら答えた。二人でピアノに歩み寄る。
「あんたは?」マイはピアニストに尋ねた。――「……月宮リン」静かな声。森や湖のような…。
「あんた、ピアノ上手ね。リクエストしていい?」マイはリンに言った。「You've Got a Friend」
ユーブ・ガッタ・フレンド―君の友だち…やはり「つづら織り」に収められた名曲。
リンはマイを見つめていた。静かに。マイは微笑みながら眼差しを受けている。
(なんだろう…この二人…初対面じゃないの?)カナの心はざわついいた。
リンの白い指が動いた。鍵盤が音楽をつむぎだしていく。
ピアノに合わせて、マイが唄い始めた。それは素晴らしい歌声だった。カナは陶然となった。
when you're down and troubled 君に問題がおきて 落ち込んだら
and you need a heiping hand… そして 手助けが必要なら…
カナも自然に唄っていた。繰り返し聴いた曲なので覚えていた。
…all you have to do is call ただ君はわたしの名前をよべばいい
and l'll be there yeah yeah yeah 君の元へ行くよ
you've got a friend 君には友だちがいる
(ゆっこにあやまろう)―カナは唄いながら、想った。
