あやかし螺紋26 「ゆっこ・フラジャイル―ハートブレイク猫パンチ」
2007年12月12日 17:06
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ノーマルの螺紋に戻った。
ケイの力量は計れた。彼女には悪いけど、ユイに比べればまだ未熟――
キキとの奇襲は失敗した。勝負は見えた。
(どう料理してやろうか……)心の中で笑みがうかぶ。
残酷な感情に、自分自身ゾクリとした。ニャーゴの頃にもどったよう……
――!?
刹那、背後に何かの視線を感じた。何か、恐ろしいもののまなざしを――
振り返るが、何もいない。
その隙をついて、ケイが間合いを詰め、甲殻の腕で突きを入れてきた。
反射的に、カウンターの猫パンチを放った。
顔面をまともに捉えた。謎の視線に気をとられ、手加減ができなかった。ケイは吹っ飛んだ。
(ごめん!ケイちゃん!)「ゆっこ」のわたしにもどって、心の中でわびる。
――終わった。手ごたえは十二分だった。
ミドリさんに顔を向け、勝ち名乗りを待った。だが彼女は首を振った。
振り向くと、ケイが起き上がろうとしていた。
信じられなかった。象でも昏倒させる気を受けたはずなのに……
震えながら立ち上がった彼女は、虚ろな眼で、何かをつぶやいていた。
それは、小さな声だった。本来なら聴こえるはずのないない囁き……
螺紋になって、聴覚がアップしているからこそ、聴こえてしまった言葉……
「おばぁ…おばぁを治すんだ…」
おばぁ?―お祖母さん!―ケイのおばあさんは病気なのか!?
おばあさんの病気を治すのが、願いなのか!?
わたしは激しく動揺した!立ち上がってきたケイと彼女の言葉に――。
ふらふらと近づいてくる彼女に、恐怖さえ感じる。
瞬間、ケイはスピードを上げ、突っ込んできた!
わたしは猫パンチで迎撃した。クリーンヒット。倒した。今度こそ……
でも彼女は立ち上がったきた。ふらふらになりながらも。
(おばぁを…治すんだ…おばぁを…)
わたしは後ずさった。ケイの気持ちに完全に圧されていた。
(どうしたの!ゆっこ!!)頭の中で、螺紋の声が響いた。
(もう一度猫パンチを撃ちなさい!そうすれば勝てる!!)わたしはイヤイヤをする様に首を振る。
ケイが歩を進める。わたしは後ずさる。逃げている。
(撃てないよ、もう撃てない…。)
またわたしは、ひとの願いをふみにじってしまう。そのことを、吹っ切れていなかった。
誘われるままに、闘いに参加しただけの自分。はっきりした願いもなく。
でも目の前の相手は…、限界を超えて挑んでくる。おそらく、誰かのために。
(同情はやめなさい!!ゆっこ!!同情は相手に失礼よ!!)螺紋の声が怒気をおびた。
同情や哀れみは、かけられた者の誇りを切り裂く。それはわかる。でも、でも…
ケイの願いはどうなるのか。それを奪っておいて同情はやめろなどというのは
結局、独善ではないのか。
(ゆっこのばか!ばか!あんたに負けたユイはどうなるのよ!)
ユイ…夕焼けの握手…新しい友達…。彼女もわたしを叱るだろうか…。
(おにいさんの力になるんじゃなかったの!?願いをその為に使いなさい!!)―螺紋は叫ぶ。
おにいちゃん…。大好きなおにいちゃん。いつも人のために戦って、傷ついて疲れて…。
また涙が…。わたしなんでこんなに泣き虫になってしまったんだろう。ハルとハナは
驚くだろうな…。ニャーゴがこんな弱虫に………
「蜂矢夕子!!」ケイがわたしの名を叫んだ。「勝負だ!!」すでに普通に戻ってしまった腕で
突いてきた!
ケイの叫びが、わたしに活を入れた。
全力の猫パンチ。
「勝負あり!あやかし少女神楽第二回戦、螺紋仙女の勝利です!!」
ミドリさんの声が闘いの終わりを告げた。
