はてしない物語より 〜ファンタージエン国の危機〜 その3
2008年7月1日 21:59
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鬼火の方に顔を向けていた岩喰い男がまっさきに気づいた。
「にぎやかなことじゃな、今夜は。そこに、また一人きおったわ。」
巨人は岩を噛み砕くような声で言った。
「ほっほーぅ、鬼火。ようこそ、ようこそ。」
夜魔がひそひそ声で言うと、月のような目の光がぼうっと燃え立った。
豆小人は新参者の方に2、3歩進み、かん高い声で言った。
「わたくしの目に間違いがなければ、あなた様も使節の資格でおいでになったようですな。」
「そうです。」鬼火は答えた。
豆小人は赤いシルクハットをぬぎ、ちょっと身をかがめておじぎをしてから、さえずり続けた。
「それでは、お近くにどうぞ。いや、わたくしどももみな、使節なのでございますよ。」
そしてたき火の前の空いた場所をていねいに小さい帽子で指し示した。
「ありがとう。」鬼火は言って、おずおずと近寄った。
「おじゃまします。私の名はブルッブ。どうぞよろしく。」
「これはごていねいに。わたくしはユックユックと申します。」豆小人が答えて言った。
夜魔は座ったままおじぎをした。「あたしは、ウシュウーズル。」
「わしはピョルンラハツァルクじゃ。よろしゅう。」岩喰い男ががらがら声で言った。
皆が使節である事を知り、安心した鬼火はさっそく目的地である『エルフェンバイン(象牙)塔』の方向を聞いてみた。
一刻も早く、女王幼ごころの君に大切な報せを届けなくてはならない。
すると、他の3人も目的地は同じだという事がわかった。そして、急ぐ鬼火にくわしく話す様せまるので、
ためらいながらも鬼火は空いている場所に腰を下ろし、話しはじめた。
故郷の『くされごけの沼』にあった『あわだつ粥』という湖が突然消えてしまった事、
それは干上がったという訳でもなく、穴があいたという訳でもない。
『何もない』のだ。まるで、その場所に目をやると、急に盲になったようだというのがぴったりだった。
そして、時がたつにつれ、その場所がどんどん大きくなり、辺りのものも次々と消えていった。
さらに時がたつと、他の場所でも同じ事が始まり(それは何もない虚ろな場所、つまり虚無と呼ぶ事にした)、
その虚無にうっかり手でも足でも突っ込んでしまうと、その部分が欠けてしまうし、
近寄りすぎると、何か反抗できない引力のようなもので引き寄せられ、身を投じてしまう者もいる。
虚無の場所が広くなる程その力も大きくなり、この恐ろしい状態が何なのか誰ひとりわからないので、
女王幼ごころの君に助けてもらうべく使節をたてたのだと説明した。
聞いていた3人は無言のまま、じっと前を見つめていた。
そしてこの場にいる全員の故郷で同じ現象が起きており、という事はファンタージエン全土に
危機が迫っているという事がわかった。
それを聞いた鬼火は息も絶えんばかりに仰天し、一同の顔を順に眺めた。
が、すぐに「それならば、一刻もぐずぐずしてはいられない!」と叫んでとび上がった。
豆小人のユックユックが暗いハウレの森を抜けるのに、鬼火のブルッブに道中照らしてほしいと
言われたが、かたつむりに乗っているような者を待っているヒマはない。
結局、エルフェンバイン塔の方向も聞かぬまま鬼火は森の奥へと飛んでいってしまった。
残された3人もそれぞれ、夜魔はこうもりに、岩喰い男は自転車に、
そして豆小人は競走用かたつむりに乗り、そこから出発していった。
参考文献「はてしない物語」ミヒャエル・エンデ作 上田真而子/佐藤真理子訳 岩波書店
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