はてしない物語より 〜ファンタージエン国の危機〜 その2
2008年6月29日 22:12
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とある岩棚のところまで来たとき、鬼火は驚いて飛びすさった。しばらく木のうろに隠れていたが、
やがて思い切ったように岩の角からそっとのぞいた。
そこは木の空けた空き地になっていて、たき火の明かりに照らされて、姿も大きさも全く違うものが三人いた。
一人は全身が灰色の石でできた様に見える巨人で、その長さはほぼ3メートルもあった。
その風化した石のような顔はがっしりと幅広い方の上で奇妙に小さく見え、前歯が鋼鉄ののみを並べたように
突き出ていた。鬼火は、岩喰い族の一人だなと思った。岩喰い族というのは、このハウレの森から想像も
つかない程遠くの山岳地帯に住んでいる生き物だった。彼らは山のおかげで生きていた。
というのは、山をかじって生きていたからだ。岩が彼らの食べ物だった。幸いな事に彼らは栄養たっぷりな
この食べ物をほんの一口かじるだけで何ヶ月も満足した。とはいえ、この種族はファンタージエン国の
たいていの生き物よりもずっと古くから住んでいるので、今やその山は穴の空いた巨大な
エメンタールチーズのような奇妙な形に変形していた。
岩喰い族は岩を食糧にするだけでなく、必要な物は何でも(帽子からかっこう時計まで!)岩で作った。
ここに来ている岩喰い男が、全部岩で作られた一種の自転車を後ろに置いていたのも、別に驚く事ではなかった。
たき火の右側にいるのは、小さな夜魔だった。鬼火の倍ほどの大きさで、まっ黒の毛でおおわれた毛虫が
立ち上がったという格好だった。しゃべる時、ちっぽけな肌色の両手をせわしなく動かした。
黒いもじゃもじゃの髪の下の顔らしいところには、満月のような大きな目が二つ光っていた。
どうやら、この夜魔も旅の途中らしかった。というのは、ふつう夜魔が乗物として使う大きなこうもりが、
翼をたたみ、後ろの枝にさかさまにぶらさがっていたからだ。
たき火の左手のもう一つのものはあまり小さすぎて遠くからは見えにくかったので、鬼火はしばらくして
やっと気づいたのだが、それは豆小人族だった。きゃしゃな体つきの小さい小さい男で、派手な背広を着、
頭には赤いシルクハットをかぶっていた。
鬼火はこの種族について詳しくは知らなかったが、彼らは木の枝の上に町を作り、
家同士は小さい階段やすべり台でつないでいるらしかった。
豆小人族が住んでいるのはこの無限に広がるファンタージエン国のまったく別の部分で、岩喰い族の
住んでいるところよりもっと遠くだった。だからこの豆小人の乗物がよりにもよってかたつむりだったのは、
いっそう不思議な事だった。かたつむりはピンク色の殻の上に銀色の鞍が光り、触角にとりつけられた
くつわも手綱も銀の糸のように光っていた。
鬼火は、まるっきり違う種族の三人がこんなところで睦まじく一緒に座っているのを不思議に思った。
このファンタージエン国では、あらゆる種族が平和に暮らしている訳ではなかったからだ。
いざこざや戦争はしょっちゅうだったし、善良な生き物だけではなく、悪者や残酷なものもいた。
鬼火自身、信頼度の点で、ある程度の非難はまぬがれない家系に属していた。
鬼火はたき火に照らされたその様子をしばらく眺める内に、三人とも、白い小旗を持つか白いたすきを
かけるかしているのに気づいた。してみると、彼らも何かの使節か代表者なのだろう。
もしかすると、鬼火自身と同じ使命を帯びて遣わされたのではないだろうか?
彼らの話し声は聞こえなかったが、互いに使節として尊敬の念を持って接しているようなので、
鬼火をも仲間として受け入れてくれるだろうと思われた。どっちみち誰かに道を尋ねなくてはならなかった。
ついに鬼火は勇気を出し、白旗をふって震えながら空中に止まった。
参考文献「はてしない物語」ミヒャエル・エンデ作 上田真而子/佐藤真理子訳 岩波書店
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