あやかし螺紋47 「団結!あやかし少女」
2008年6月18日 15:55
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カレンは目覚めていた。
柔らかでいい匂いのするベッドと寝具に、白いパジャマで寝かされていた。
少し離れた右側のベッドには、ハルがいびきを立てて眠っている。無事なようだ。
かまぼこのような形の石の壁の部屋は20畳程の広さがあった。
間接照明が設けられ、空調も効いていて居心地は悪くなかった。
体自身は軽い倦怠があるだけで、ほかにダメージは無いが、守護霊獣、アオキさんを
呼び出す事はできなかった。敗北の代償で、しばらく霊力は失われたままだろう。
カレンは歯噛みをした。斑野舞に何も出来ずに敗れ去った。
カナを助けるどころかハルまで巻き込み、ベッドに寝かされる羽目になるとは。
―何かの気配を感じ、緊張が走る。マダラか―。
石の扉が開き、少女と、黒い子供に羽のはえたものが現われた。
「はじめまして、カレンさん」―白いワンピースを着た少女が微笑みかける。
「・・・一ノ瀬カナさんですか?」―カレンが尋ねた。
「はい。この黒い子は蛾妖子といって、舞のお世話をする妖精さんです」
蛾妖子が宙を飛びながら、カレンの元にペットボトルの水を運んだ。
「変なものは入ってないと思うよ」―カナが笑いかけた。カレンがボトルを受け取ると、蛾妖子は
ブーンと羽をはばたかせ、部屋を出て行った。水を飲んだ。おいしい。
「それ、私のパジャマなんだけど、一回も着たこと無いやつだから」―と、カナ。
「ありがとうございます」―カレンは礼を言った。
ハナは学園を出て誰も追ってきていないことを確認してから、携帯で夕子に連絡を取ろうとした。
そのころ狗道ユイは変身した姿で飛ぶように疾走していた。
カナの家の壁ぎわに立てかけてあった夕子と自分の鞄を無事回収し、リンの屋敷に帰る所だった。
そこにハナからの携帯電話の着信が、夕子の鞄の中の携帯を震わした。
ユイは何かを感じ、夕子の電話に出て、ハナから事情を聞いた。
ユイはハナに居場所を聞き、そこで彼女を拾ってから屋敷への最短距離を走った。
「ひええ」―ユイにおぶさるハナは何度か振り落とされそうになった。
リンの「幽霊屋敷」で、ハナは学園の地下で有った事を、皆に話した。
リン、夕子、螺紋、ユイ、ケイ、キキ、そしておさげ髪の怪事官、石動マキがいた。
城戸ミシェルも遅れてやって来る予定だ。凄腕の助っ人を連れてくるという。
図書室からの地下世界の潜入、斑野舞と榊姉妹との遭遇、舞とカレンとの戦いと、カレンの敗北
そして、カレンとハルをおいて逃げ出してきた事・・・。
そこまで話して、ハナは号泣した。「ごめんなさい、ニャーゴさま・・・」―夕子は彼女を抱きしめた。
「榊姉妹・・・あたしの幼馴染なの」―ユイが言った。「あいつらマダラの奴に雇われたのか・・・」
狗道家と榊家は、鎌倉の地で霊能力を能くする両家として、力を磨きあってきた。
ユイも綾音、琴音と、共に厳しい修行した仲だったのだが・・・。
「それと、間離の力(まはだらのちから)か・・・」―マキがつぶやく。
「攻撃を届かせない能力・・・。矜迦里権現と引き分けたのもその力があったからなのね」
夕子もほかの者も皆、戦慄を覚えた。カレンが何も出来ずに敗れた。―そもそも・・・
―触れる事のできない相手を、どうやって倒せばいいというのか。
沈黙の中、ユイの携帯電話から着信音が響いた。―榊琴音からのものだった。
「あんた、琴音!?」ユイが通話する。「マダラの所で、なにやってんだよ!」
「ユイ、久しぶりに遊ぼうよ。まってるからさぁ」―通話は切れた。
「おい、こら!切るな!」リダイヤルも、つながらない。電源を切っている。
「榊姉妹か・・・。幻獣を捕まえてコレクターに高値で売っている非合法の能力者ね」
マキが言った。幻視省で捜査したが証拠不十分で逮捕できなかった二人だった。
「昔は二人とも、そんなんじゃなかったのに」―ユイが言った。
数十秒の沈黙の後、夕子が言った。
「わたし、行きます。三人を助けに」
「ゆっこ・・・」―猫の螺紋がつぶやく。
皆、再び黙り込んだ。勝算がまるで無い。あまりにも不利な戦いだった。
リンは想った。まだ、早い。足りないのだ・・・大事な何かが・・・。
「ゆっこ姉、手を出して」―ケイが沈黙を破った。
「こう?」夕子が右手を差し出した。
ケイが夕子の手の甲に自分の手を重ねた。
「わたしも行く」―ケイが微笑んで言った。ハートの強さは、あやかし少女の中でも一番だった。
「だっせぇなあ」―ユイも笑いながら、手を重ねた。
「わたしも行きます!行かせてください!」―ハナも手を上に置いた。
「放っておけないわね」―マキも同様にした。
リンは無言で、手を重ねた。夕子と目を合わせ、微笑みあった。
「わたしも、わたしも!」―キキも手をのせた、というより、体が小さいので、体をのせた様になった。
「ゆっこ、あたしも」―夕子に抱き上げられて、猫の螺紋も前の右足をのせた。
「みんな、ありがとう」―目に涙をためながら、夕子は感謝した。
(おにいちゃん、わたし、この仲間と一緒に、がんばってみる)
夕子は兄に助けを求めるのを、今は止めた。兄も忙しい身だ。
思えば、ウゴブロマンである兄と宇後の窓博士、そして自分の三人で罵空城に乗り込んだときも
勝算など無かったではないか。
戦いの中で、何かが見つかる。夕子はそんな気がしていた。いつも、そうだったから。
兄と再会できたときも、螺紋に変身したときも。ここにいるみんなの心にふれたときも。
夕子は拳を固めた。皆が想いを重ねた拳を。
(斑野舞・・・わたしが倒す)
だが、リンが感じていた通りだったのだ。大事なパズルのピースは、まだ欠けたままだった。
