あやかし螺紋46 「まはだらに散る」
2008年6月6日 12:05
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「グレート!どうしたの!?」
カレンには、何をされたのかわからない。何かの冗談のようであった。
斑野舞の顔面へ右の拳を打ち込むはずであったアオキさんグレートの体が
スロー再生の映像のように、ノロノロと緩慢なものになっている。
金縛り?バリアー?それとも時空間を歪めたのか。
しかしカレンには、体にかかる負荷も、時空の異常も感知できない。
それなのに、音速を超えるはずのグレートの拳は、十秒に5センチほど前に進むのみ・・・。
「これが、「間離(まはだら)の力だ」
斑野舞が告げた。
「間離(まはだら)」という言葉は、「まだら」という語の由来ひとつとされている。
間(あいだ)の離れたもの、ようすをあらわすこの言葉が、斑野舞=マダラの主の
特殊能力を示していた。すなわち――
斑野舞に攻撃は届かない。
パンチであろうが銃弾であろうが核爆発の衝撃波であろうが、彼女には届かない。
「この力は、眠っている間も、いつでも自律的に私を守る」―舞が言う。
隠れた場所からの狙撃、地雷の爆風、斑野舞に害を及ぼすもの総ては
その「間(ま)」を埋める事はできない。不意打ちも無駄なのだ。
それらは斑野舞の肉体に届く前に、ベクトルのエネルギーを失って静止するのみ・・・。
榊姉妹もこの力を観るのは初めてだ。姉の綾音は分析する。
(因果律を狂わす決定的な力。・・・鍛錬や集中を必要とする超能力や霊能力とは
次元が違う・・・。やはり、神。勝てるはずが無い・・・)
綾音の思うとおり、斑野舞の体には一切の力みが無い。呪文の類の詠唱も無い。印も組まない。
ただ立って、微笑んでいる。
カレンはアオキさんグレートを退かせようとしたが、駄目だった。拳を打ち込むという行動を
ノロノロと進めるだけだった。ある程度近づき、静止するまで、始めた動きは止められないのだ。
「まはだらの力」―恐るべし。
「♪もしもしカメよ、カメさん・・・」
舞は唄いながら、人差し指を、アオキさんグレートの額に当てた。
「よっ!」
そのまま、グレートの頭を、石の床に叩き付けた!固い岩盤に後頭部がめり込む。凄まじい力―。
使役された霊の受けたダメージは、術者に還る。
「あう!」―カレンが叫ぶ。と同時に、右側の髪を纏めていたゴムが弾け飛んだ。
カレンの髪飾りは、アオキさんが受けたダメージをある程度肩代わりする、安全装置であった。
これが無ければ、即死だった。
それでも激痛がカレンの全身を襲い、倒れかけ、ハルに抱きとめられた。
三人を覆っていたバリアーも消え、カレンはもう、戦闘不能と思われた。
その時、舞には予想外の事が起こった。
ハルとハナが、カレンをかばうように、身構えたのである。
足を震わせながら、勝ち目の無い相手をにらみつけている二人。
刹那、舞の体を青いバリアーが覆った。
「ハルさん、ハナさん、わたしを置いてにげて・・・」―苦痛に耐えながら、カレンが言った。
「なるほど。わたしを閉じ込める気か・・・だけど」
舞が左拳を振るった、拳の先を見もしない。
バリアーがあっさりと割れた!螺紋のフルパワーを弾き返したカレンのバリアーを!
―怪力乱神、ここにあり。
「あう!」―カレンの苦鳴、再び。今度は左側の髪飾りが弾けた。
今度こそ、カレンは気を失った。
「ハナ!」ハルが鋭く叫ぶ。(逃げて!この事をニャーゴさまにつたえて!)
「わかった!」―ハナは逃げ出した。以心伝心の行動だった。
泣きながら、ハナは逃げた。―(・・・ごめん、ハル、カレンちゃん。ごめん・・・)
カレンをハナに託し、夕子の元へと走る。
「行かせていいのぉ?、マダラの姐さん」―琴音が問う。
「かまわないわ、行かせなさいな」―舞が答える。
カレンとハル、ハナ。互いをかばい合うその心にうたれ、ハナの逃走を許したのだという事を
琴音にはわからなかった。
「さて」
舞は昏倒したカレンと、カレンを抱くハルへと歩みだした。恐怖で、ハルの腰は抜けていた。
「ゆっこさま・・・ごめんなさい・・・」
カレンはうわごとでつぶやいた。涙を流しながら。
動けない二人に、舞の手が伸びていった。
