あやかし螺紋43 「吼えて、泣く(後編)」
2008年5月12日 13:06
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夕子とユイの小突きあいが本格的な格闘に変わろうとしていたとき―
「おやめなさい」―声が上からした。
矜迦里権現の使者、ミドリが木の上から降ってきた。
もう一つ気配を感じてユイが振り向くと、生ける水晶の夢、
クリスタライン、月宮リンが歩いて近づいてくる。
「何事なの?」―リンの住む「幽霊屋敷」はここから近く
夕子の叫びを聞きつけてやって来たのだった。
二人は我に返ったように、変身を解いた。
夕子はミドリに詰め寄り、カナがさらわれた事を告げ、カナとマダラの居場所をおしえて下さい、
願い事を叶える権利を使って良いですから、権現さまにカナを取り戻すように
頼んでくださいと、哀願した。必死だった。
―トン。ミドリが人差し指で額を突くと、夕子は気を失った。ユイが抱きとめた。
ユイにも訊きたい事があった。ミドリを睨んだ。
「あたしたち、ヨミとかゆう蛇に、操られていたの?」
「いいえ。ヨミが操れるのは、心が弱っている一般人。あなたがたレベルの能力者を
動かすほどの力は無い。でも、怒りで我を忘れていては同じ事ですけれど―」
ユイにはグサリときた。確かにそのとおりだ。ゆっこもあたしも冷静さを失っていた。
「カナさんをさらったのはマダラなのね?あいつはどこに・・・?」
「確かにマダラの主の仕業。どこにいるのかは知りません」
ユイはかねてからの疑問をぶつけた。
「あやかし少女神楽は、ゆっこを覚醒させて、鍛えるためのものだったのね。マダラと闘わせる為に―
蠕夢と玄虎のかわりに、ゆっこと螺紋をぶつけようとしている・・・」
ミドリは答えない。いつものにこやかな表情は仮面だったかのように、無表情だった。
「マダラはなぜ出てきたの?呪いの雨が封印を解いたの?やっぱり復讐が目的?」
ミドリは無言。
「矜迦里権現は何をしているの?一般人が巻き込まれているのよ。
ゆっこは願い事の権利を使ってまで、 カナさんを助けようとしている・・・。
ゆっこの願い、叶えてくれるんでしょうね?」
「願い事は使えません。権現の力もマダラの主にはブロックされます。マダラの主は零落したとはいえ
神に等しい力を持つ、いわば、「亜神(あしん)」ですので」
ミドリは答えた。
「だったら、あたしも闘う!ゆっこも、ケイやカレンだって・・・。幻視官たちもいるわ。
権現の力になれる―」
「権現さまは戦われません」
「なんだって!?」
ユイは耳を疑った。
「権現さまが戦えば、また因縁が生じ、怨念が残ります。未来に遺恨を残すのです」
ミドリの答えは冷徹な響きがあった。
「だったら!―ゆっこに丸投げしようってゆうの?全部人間にやらせようってゆうの?」
「権現さまはすべての手を打ちました。これ以上の干渉はなさりません」
ミドリの体が透き通って行く。消えて行く。
「待って!」
ユイが叫んでも、ミドリは去っていった。
夕子の体を抱きしめながら、ユイは震えていた。
「・・・カナ・・・ごめん・・・」
夕子がつぶやいた。寝言だ。涙がながれていた。
―ゆっこ、さらわれたカナ、マダラの主、折れた木、無責任で勝手な神々、・・・無力な自分。
ユイの目から、涙があふれた。
(なんで!―なんであたしが泣かなくちゃいけないんだ!)
そう思っても、涙はこぼれていった。
月宮リンは見ていた。
リンはユイを抱きしめた。優しく、夕子を抱きしめるユイを、抱きしめた。
水晶の夢で出来た少女の胸はあたたかかった。
山に夕暮れの光が差し込んで、少女たちを包んでいた。
