あやかし螺紋40 「蠕夢といふ僧、玄虎なる鬼を遣ひて仏に加勢す」
2008年4月14日 08:41
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平安時代に著された絵巻物語、「矜迦里山縁起絵巻」。
そこには土着神である「マダラの主」と垂迹神(すいじゃくしん)「矜迦里権現」との
闘争が描かれている。
―垂迹神とは仏が衆生を救う為、神の姿となって現れる事を言う。
矜迦里山は昔、「まだら山」と呼ばれていた。
山には「マダラの主」(まだらのぬし)と呼ばれる女の姿をした神がいた。
大女で力が強く、背中に「ヨミ」という名の大蛇を飼っていた。
ヨミはその名の如く、人の心を読む事ができ、それをマダラの主に伝える能力をもっていた。
ヨミにはまた、記憶を奪ったり、憎しみを増幅する等、心を改変する力もあった。
マダラの主は時々ふもとの村におりてきて悪さをした。
ヨミを使って村人同士を争わせたり、酒を飲んで大暴れをし、村の家々や畑を滅茶苦茶にした。
その一方、音楽を愛し、美しい歌声を持ち、その歌は村人の心を和ませた。
また、マダラの主には、人の体を治す力があった。眼の見えぬ者の視力を復活させたり
歩けぬものの足を治したりして、人々に感謝された。
乱暴で、狡猾でありながらも、人懐っこい面も持ち、慈悲の心もみせる・・・。
混沌とした性格をもつ荒神、それがマダラの主であった。
そのまだら山に「矜迦里権現」(こんがりごんげん)という仏神がやってきた。
それは仏教の伝来とともに顕れた‟新しい神”であった。
マダラの主は山に人が入る事を許さなかった。人が入れば山は壊される―
マダラの主は山を守っていたのだ。
矜迦里権現はマダラの主に要求した。
‟山を開き、その恵みを人々にわけあたえよ”
主は拒否した。そして、戦いとなった。
‟神々の戦い”は大地を割り、嵐を呼び、麓の村人を苦しめた。
戦いが四十九日目を迎えたとき、一人の修験の僧が荒れ狂う山に現れた。
その名は「蠕夢」(ぜんむ)という。
修行の旅の途上、まだら山で起きている神変を知り、やって来た。
蠕夢は初め中立の立場で調停者となり、和解をすすめようとしたが、
マダラの主が自分に牙をむいたために、止むを得ず矜迦里権現の側についた。
蠕夢は「玄虎」(げんこ)という強力な鬼神を呼び出し、マダラの主と戦った。
―戦いは四十九日目にして、矜迦里権現と蠕夢・玄虎側の勝利となった。
敗れたマダラの主は地中深くに封印され、山は人々に開かれた。
かくしてまだら山は、矜迦里権現を主神とする「矜迦里山」と名を変え
麓の村には山の豊かな恵みを与え、修行者には澄んだ霊流をもたらす霊峰となった。
―夕子、ユイ、ケイ、カレンは放課後の図書室で(――人が近づかぬよう結界が張られている――)
おさげの石動マキから、「矜迦里山縁起絵巻」のストーリーを聞かされた。
リンの姿は無いが、城戸ミシェルが同じ話を伝えているだろう。
あの斑野舞は、マダラの主の化身、あるいはそのもの―
そして絵巻に登場する蠕夢・玄虎は―夕子・螺紋の存在と重なる。
夕子が蠕夢の生まれ変わりであるのだとすれば、舞が夕子を復讐の対象とする可能性がある。
幻視官のマキとミシェル、あやかし少女神楽の参加者たちは一丸となって
舞の行動を注視していく―そのようなことが話し合われた。
「ゆっこさまには手出しはさせませんわ!」カレンは力強く言った。
「わたしも同じです」ケイが言った。「同じ同じ!」キキも声を上げた。
「ありがとう」―夕子は答えた。
ユイは夕子の様子をずっと窺っていた。この図書室に入ってきてからずっと元気が無い。
今も微笑んではいるが無理をしているように感じられる。
会合が解散して二人きりになった時、ユイは夕子に話しかけた。
「元気ないじゃん。大丈夫だって、マダラの何とかなんて」―ユイは明るく励ました。
「・・・その事は、あんまり気にしてないけど・・・」
聞けば、夕子が気落ちした様子なのは、斑野舞には関係の無い、友人関係の問題であった。
・・・一ノ瀬カナと仲直りができていない。
隠していた自分の事をすべて話して、許しを請おうと思っていたが、カナは学校を二日ほど休んでいた。
メールを送ってみたが、返信は無かった。
ユイはあきれた。神に等しい力を持った怪物に、狙われているかも知れないというのに・・・。
夕子の過去について、ユイも知っている。悪の組織につかまり幹部に仕立てられ
正義の味方の兄との戦闘の末、救われたという。
そんな夕子にとっては、ありふれた日常の悩みが重たく、大切なものなのだろう。
ユイは言った。「だったら見舞いにいこうぜ!カナちゃんの家に。わたしも付き合うよ」
「・・・お見舞い?」
「そーだよ。誠意みせんだよ。顔出してもらえないかもしれないけどさ。
家にまで来てくれたらうれしいよ。なんなら、メロンでも買っておみやげにさ・・・」
夕子は笑った。
「ユイ・・・ありがとう」
二人はカナの家に向かった。―そういえばカナの欠席の理由を知らないなと、夕子は思った。
軽い風邪くらいならいいけど・・・。
二日前の学園の昼休みに、
カナは図書室にいた。
そこで、
彼女は
姿を
消した。
